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Mrs. Little December

なにか考えたり、なにか読んだり、どこかに行ったり。

タワー・オブ・テラーに乗ったら人生がちょっぴり変わった話

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ジェットコースターが苦手だ。

 

ガジェットのゴーコースターのような子供だましのジェットコースターにも乗りたくない。ジェットコースターと名のつくものはすべて恐ろしい、安全性の低い、スリルを感じたいとか言い出すマゾヒストが乗るものだと思っている。そんなわたしが東京ディズニーリゾートの2パーク年間パスを手に入れたときは、すこし気が大きくなっていた。フランダーのフライングフィッシュコースターに乗り、さらに気を大きくした。

 

そこから、センター・オブ・ジ・アース、レイジング・スピリッツと、ディズニーシーに存在するいわゆる絶叫系アトラクションに意気揚々と参加した。センター・オブ・ジ・アースは速度がある代わりに、ライド全体の中での絶叫ポイントが最後の落下にしかないため、それなりに余裕を持って制覇できたし、レイジング・スピリッツは360度回転さえしなければフランダーのコースターとさして変わらない恐怖感だった(ちなみにもう一度360度回転するのはごめんである)。残すところ、ディズニーシーで絶叫系と言われるものはタワー・オブ・テラーのみ。わたしは2つのジェットコースターを乗りこなしたことで多大な自信を身に付けていた。

 

わたしが間違っていた。

 

結局タワー・オブ・テラーでは、ライド中ずっと隣の夫のTシャツを両手で鷲掴みにし、不慮の事故の際には夫に犠牲になっていただこうと足を踏ん張り、最終的にライドが終わると同時に誰よりも早くエレベーターから走り出て出口を間違えるという醜態を晒した。そもそもライド前から、みんながこれから始まるフリーフォールに期待を膨らませながらツアーの説明を行うキャストをガン無視する中、シリキ・ウトゥンドゥの存在に心の底から恐怖していた24歳である。もう二度とジェットコースターには乗らない。それがその日の教訓であった。

 

そんな我が家は年パスを取得してから、毎週ディズニーシーに足繁く通っている。つまりタワー・オブ・テラーで死を覚悟してから1週間、次の週にもディズニーシーへ向かい、乗りそびれていたインディ・ジョーンズのライドに乗った。しかし夫はすっかり気に入ってしまったのか、あるいはシリキ・ウトゥンドゥにリアルに呪われたのか、終始タワー・オブ・テラーを気にしている。「乗ろうよ」というオファーを50回ぐらい断りながら、わたしの頭の中はあの恐ろしいシリキ・ウトゥンドゥと、エレベーターとはお世辞にも言い難いカゴのことを思っていた。給料が支払われるわけでもなし、瀕死のスリルを感じて何がおもしろいのかもわからない。それでも夫は引き下がらず、ついにはわたしの病気の話まで持ち出される深刻な展開となった。ちなみにわたしはパニック障害うつ病(現在は回復期に入っている)を患っている。

 

「ここで乗らなかったらきっと罪悪感と後悔でいっぱいになって、うつになるよ」

 

と、わたしよりわたしに詳しい夫は説明した。事実、わたしもそのままタワー・オブ・テラーに乗らなければ、夫が唯一乗りたいと思えるライドに一緒に乗ってあげられなかったことに罪の意識を感じ、さらに自分の弱さに落胆して1週間はうつ状態に陥るだろうと思っていた。それでも嫌なものは嫌だ。オファーを断り続けて80回目ぐらいになったとき、夫は言った。「感情には打ち勝たなくてはいけない、これくらいのストレスを打破できなければ社会に出てきっと苦労するぞ」。たかがタワー・オブ・テラーごときで一体どうしてそこまで話が膨らんだのかは覚えていないが、わたしは結局、渋々承知することになった。

 

そしてしっかりと40m落下して、今度は出口を間違えずにちゃんと外に出た。

 

あれからまだ4日ほどしか経っていないが、2度目のタワー・オブ・テラーから自分のマインドセットが変わった。「感情には打ち勝たなくてはいけない」。そして、「自分は感情に打ち勝つことができた」。タワー・オブ・テラーが大きな成功体験となって、わたしは以来「やりたくない」と思うことに積極的に突っ込んでいくようになった。なぜなら、「やりたくない」という感情に一度飛び込んでしまえば、自分がそれに「打ち勝つ」ことができるとわかったからだ。こうしてわたしは何かネガティブな感情を感じる度に、「タワー・オブ・テラーに乗れたのだから、打ち勝てるに違いない」という少々角度のズレた自信のもとに毎日を生きてきた。タワー・オブ・テラーが思いがけない認知行動療法になったのだ。

 

そういうわけで、あの日以来、わたしはやりたくなくてもやらなくてはいけないことに精を出すようになった。まだ4日しか経っていないが、こうして文章に残しておくことで、タワー・オブ・テラー効果が続くことを期待している。